自己紹介
はじめまして、林谷隆志と申します。
執筆時点で43歳です。
現在、障がい者雇用として企業に所属し、絵を描くアーティストの仕事をしています。
まずは簡単に、これまでの経歴をお話しします。
経歴
① 警察官(およそ10年)
② 障がい者雇用の事務職の仕事(およそ3年半)
③ 障がい者支援事業のWebライター(およそ1年)
④ フリーランスのアーティスト兼ライター(およそ1年)
⑤ 企業所属の障がい者アーティスト(継続中・執筆時点でおよそ2年半)
最初の警察官の頃に、当時勤めていた部署での上司とのコミュニケーションなどが上手くいかず、うつ病を発症しました。
その診断の際に、かかりつけの精神科の医師から発達障害の心理検査を受けるよう勧められたのです。
検査の結果、発達障害の1つ「ASD(自閉症スペクトラム)」の診断を受けました。
さまざまな環境で自身の“声”を発信してきました
私は、障がい者支援事業のライター時代、執筆のために自分にある障がい以外の知識や、それを取り巻く社会の状況などを学ぶ機会がありました。
そうして得た知識も相まって、イベントやセミナーなどで自身の経験や見解をお話しさせていただく機会をいただきました。
これまでには、2020年に東京都渋谷区で開催された福祉イベント「超福祉展」や、同年に開催された「超福祉の日常を体験しよう展(通称:超福祉展)」の開催シンポジウムに登壇しました。
また、現在の職場でもトークイベントを開催し、会場にお越しくださったお客様と一緒にアートを楽しんでいただきながら、自身の生きづらさや思いについてお話しすることもありました。
その中で、特にお話ししてきたテーマのひとつに「合理的配慮」があります。
そもそも「合理的配慮」とは何だろう?
「合理的配慮」とは、障がいのある方が学校や仕事などの社会生活の中で「これはつらい……」と感じることがある場合に、その特性によって障がいのない方との間に不平等が生じないよう、それぞれの困りごとに応じて企業や団体が行う配慮のことです。
2024年4月1日からは、「障害者差別解消法」という法律によって義務化されることもあり、今後さらに注目度が高まる言葉になるかもしれません。
とはいえ、いきなり「合理的配慮」と言われても、ピンとこない方も多いのではないでしょうか。
そこで、私自身が経験した事例をご紹介します。

これは、冒頭で紹介した②の仕事、「障がい者雇用の事務職」として働いていたときの、同僚である後輩社員の話です。
一緒に働く中で、仕事に向き合う熱量や学ぶ姿勢に感銘を受けたことを、今でもよく覚えています。
そうした意欲があるにもかかわらず、ひとつ問題がありました。
それは、「退勤時間になっても帰ろうとしない」ことでした。
もちろん、私も含め原則として残業はありません。
上司からも「4時になったらタイムカードを切って帰ってね」と、何度も声をかけられていました。
後輩は、決して反抗的な態度を取るタイプではありません。
それでも4時を過ぎても帰ろうとせず、上司は
「どうして言うことを聞いてくれないんだろう……?」
と悩んでいました。
私は、その後輩から相談を受けることが多い立場だったため、日頃の様子を見ていて、あることに気づきました。
その後輩は、「アナログ時計が読めなかった」のです。
職場のフロアには、アナログ時計しかありませんでした。
そのため、「4時に帰って」と言われても、いつが4時なのかが分からなかったのです。
そこで私は、アナログ時計の「4時のときの形」を絵に描き、
「時計がこの形になったら帰ってね」と伝えるようにしました。
すると、それ以降は素直に退勤するようになりました。
このような対応も、合理的配慮のひとつだといえるでしょう。
この事例からも分かるように、
「多くの人が当たり前のようにできていることができない」
「本人自身も、何が問題なのか自覚していない」
というケースがあることが、困りごとの難しさだと感じています。
私自身も、他者の感情を読み取りすぎて考えすぎてしまうことに悩んできました。
そうした苦しさを
「考えなければいいじゃん」
と片づけられてしまい、周囲との感覚の違いに苦しんだ経験があります。
当事者は企業にどう伝えればいいのか
就労移行支援事業所に通っていた際、履歴書の「企業への配慮事項」を書くときに教わったことがあります。
私は聴覚過敏があり、周囲のひそひそ話や生活音が気になって、ストレスをためてしまうことがあります。
これを「周囲がうるさいです」「音が苦手です」とだけ伝えてしまうと、企業側は
「では、どうすればよいのか?」
と対応に困ってしまいます。
そこで、
「ヘッドフォンを使用したい」
「人の少ないフロアで作業したい」
など、具体的な対処方法まで伝えることが大切だと教わりました。
雇用側の企業にお伝えしたいこと
私が企業の方にお願いしたいのは、障がい者雇用の社員本人と、よく向き合い、話すことです。
障がいのない社員との関わりでは、「普通」という基準からの微調整で理解できることもあります。
しかし、障がいのある人との関わりでは、その基準が通用せず、0から向き合う必要がある場合も多いでしょう。
ひとりひとりの「トリセツ」を作るような気持ちで向き合うことが、分かりやすいかもしれません。
おわりにー障がい当事者の願い
最後に、発達障害がある当事者として、私の「願い」をお話しさせてください。
私は、さまざまな苦労や経験を経て、ようやく今の自分らしい働き方に辿り着きました。
過去の職場では、企業が
「障がい者雇用にどう働いてもらえばいいのか分からない」
という理由から、“誰でもできる簡単で評価されにくい仕事”を任されることが多くありました。
もちろん、どんな仕事でも手を抜かず努力し、人に教えられるほどまで成長しました。
しかし、昇給どころか職場からの評価も上がりませんでした。
元々が簡単で誰でもできる仕事だからです。
「頑張れば、『やりすぎ』と恨まれる、頑張らなければ『もっとやれ』と怒られる」板挟みや、
「自分は社会の置物じゃない」そんな悔しさを経験したからこそ、
同じように障がいのある当事者が、もっと早く、もっとつらい経験をせずとも自分を活かせる働き方に出会える社会になってほしいと願っています。
課題はまだまだありますが、企業の方には「活かす」こと。
障がい当事者の方には「活きる」ことを忘れないで欲しいのです。
そのために、これからも私は少しでも多く声を上げていきたいと思っています。
「障がい者“でも”できることではなく、障がい者“だから”できることで社会に貢献していきたい」という思いを持ち続けています。
それが、私の願いです。
林谷 隆志
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