「問題行動」として見えてしまうものの背景
発達障害にまつわる雑感として書いているコラムも、今回で3回目になりました。
今回のテーマは、「発達障害当事者とその家族との関連」です。
しばしば“問題行動”と捉えられてしまうことの多い、当事者の行動面に話を絞ってお話しします。
発達障害による種々の神経過敏や過度のこだわりなどから、生きていきにくさを感じている当事者の中には、暴力や万引き、ウソやごまかしなどの行為がみられる場合があります。
実際にそうした行動に対応しなければならないご家族や支援者は、その対応の困難さから、これらを“問題行動”と捉えてしまいがちです。
しかし、そうした行動には必ず背景や理由があります(※①)。
そして、その背景や理由を看過してしまうと、物事の本質を見誤り、好ましくない結果をもたらすことにもなります。
「抑えようとする対応」がうまくいかない理由
具体的には、“問題行動”を発達障害の症状として捉え、精神科の薬で押さえつけようと試みたり、親がしつけとして言動によってコントロールしようとしたりすることです。
しかし、その多くは失敗し、むしろ“問題行動”は強まっていくことになります。
発達障害のある当事者の問題とされる行動は、本人が苦しさやつらさを抱えていると同時に、周囲の人間も疲弊します。
そのため、問題とされる行動を鎮静化させたくなるのは、ある意味で自然な感覚でしょう。
ですが、その行動の要因は、実は本人だけでなく、家族や周囲の環境にあることはあまり知られていません。
この点は、精神医学的・科学的な理論によって説明することが可能です。
家族の「善意」が引き金になることもある
では、ごくごく簡単に説明してみましょう。
発達障害のある当事者に対してご家族が関わろうとする場面では、たとえば次のようなことがあります。
- 学校を休みがちなので、学校に行くように促す
- ゲームばかりしているため、せめて家の片付けくらいはさせようと声をかける
- 将来を案じて、「この先どうするつもりなのか」「働くつもりはないのか」と問いかける
こうした言葉かけに対し、当事者からきつい言葉を浴びせられる、物を投げられる、壁に穴をあけられる、暴力を振るわれるといった状況が生じることがあります。
それは「怠け」や「性格」の問題ではない
これは、単なる気分の問題や怠けではありません。
幼少期から積み重なったつらい体験や経験(小さなものから大きなものまで含みます)が、脳に記憶として刻み込まれ、時にトラウマとなり、その反応として、きつい言葉や暴力が表出してしまうのです。
むしろ、きつい言葉や荒い言葉、暴力がみられないときには、ご家族に対して優しい言葉や気遣いを見せる当事者も少なくありません。
当事者本人も、「できれば親と言い争いはしたくない」「暴力は振るわないほうがいい」と理解していることがほとんどです。
(暴力の正当性を語る場合もありますが、それもまたこの反応の一部に含まれます。)
発達障害に限らないが、発達障害と深く関係する話
この話は、発達障害のある方に限ったものではありません。
昨今取りざたされている不登校やひきこもり(SDS:社会的距離症候群)、さらには精神障害とも深く関連しています。
一見すると、発達障害に限らない話ではないかと思われるかもしれません。
しかし、発達障害の要素を強くもてばもつほど、こうした反応はより強化されやすく、ひきこもり問題や家庭内暴力として顕在化しやすくなります。
また、その背景にある発達障害が見逃されているケースも少なくありません。
そのため、本稿では「発達障害当事者とその家族との関連」というテーマとして取り上げました。
あわせて、「何でもかんでも発達障害として見る」問題(※④)についても、触れておく必要があるでしょう。
なお、発達障害と虐待の関連、虐待後遺症、精神科薬物療法の副作用といったテーマも本稿と深く関係しますが、紙幅の都合上、今回は割愛します。
家族会・家族心理教育という支援のかたち
最後に、家族会や家族教室について述べておきます。
家族会や家族教室(※②)、あるいは家族心理教育といった言葉を聞いたことはあるでしょうか。
これは、発達障害をもつ当事者の家族など、同じ立場の人たちが集まり、話し合いや学びを行う場です。
具体的には、次のような目的で行われます。
家族会や家族教室の目的
- 発達障害当事者への家族のかかわり方を学ぶ
- 発達障害とはどういうものか薬の作用や副作用、発達障害や薬に関する考え方などを学ぶ
- 家族会の同じ境遇(追いつめられている状況など)にある家族同士でつらいこと、良かったことなどを語り合い気分の緩和をはかる
これらは、発達障害をもつ当事者と家族が関係をこじらせることなく、より良好な関係を築くために、家族側から理解を深めていく試みです。
家族支援の「質」が問われる時代へ
当事者と家族には長年の関係性があります。
その関わり方は習慣化しており、改善をはかることは容易ではありません。
しかし、精神医学的には家族心理教育に代表される家族支援は有効であり、脳科学的にはトラウマインフォームドケア(※①③)など、脳の反応を根拠に支援を組み立てていくことが可能です。
もっとも、「家族会」や「家族心理教育」という名称がついていれば、どこでもよいというわけではありません。
こうした科学的な理論をしっかり理解していることが前提になります。
一方で、その他の家族会が無意味ということではありません。
家族の気持ちを吐き出す場としては、十分な意義があります。
ただ、一定期間参加して「すっきりした」ものの、その先どうすればよいのかわからず、行き詰まりを感じているご家族がいるのも事実です。
既存の家族会を批判するものではありませんが、その機能をさらに発展させるため、筆者は日々さまざまな観点から、より良い方法を模索しています。
①田邉友也:精神疾患からの回復を導く方法・思考のいしずえ―薬・家族支援,そしてトラウマインフォームドケア.精神看護出版,2022.
②山根俊恵:ひきこもり“心の距離”を縮めるコミュニケーションの方法 改訂版 親も子も楽になる.中央法規,2022.
③山根俊恵,田邉友也,森脇 崇,矢田 浩紀:チームで取り組む ケアマネ・医療・福祉職のための精神疾患ガイド 押さえておきたいかかわりのポイント.中央法規,2020.
④適正診断・治療を追求する有志たち:精神科セカンドオピニオン2―発達障害への気づきが診断と治療を変える(精神科セカンドオピニオン).シーニュ,2010.a
⑤J.レフ,C. ヴォーン,三野善央,牛島定信訳:分裂病と家族の感情表出.金剛出版,1991.
特定非営利活動法人精神医療サポートセンター代表理事
田邉 友也
精神科認定看護師・精神看護専門看護師・公認心理士
2007年よりNPO法人精神医療サポートセンター代表理事。精神科における診断・治療・看護の質的、構造的問題を早い段階から提起。精神科薬物療法、発達障害、トラウマに関する執筆・講演を多数行っている。